2017(平成29)年1月グリーフワークかがわ
ニュースレター第153号(HTML版)
2017(平成29)年2月6日 グリーフワークかがわ広報部
◆理事長メッセージ◆
***新年によせて***
子どもたちがのびやかでいられるために
年の初め,自然は私たちに穏やかな天候を与えてくれました。一方,人間が作る環境は,決して穏やかとは言えない日々が続いています。不満,偏見に満ちた攻撃的な言動,ときには犯罪場面がそのまま動画で繰り返される現状があります。こうした環境を,幼い子どもたちはどう体験しているでしょう。社会に信頼を築くことが難しくなっているのではないかと案じられてなりません。
子どもたちが家族との死別によってどのような影響を受けるかについて研究が行われていますが,忘れてならないのは,死別だけでない,いまそこに起きているかもしれない喪失です。リンダ・ゴールドマンは,声に出したくても言葉にならない子どもの訴えに気づき耳を傾ける必要があると述べ,現代社会の子どもたちの未来の喪失を危惧しています。著書のなかで,子どもたちは暴力や虐待を直接体験していなくても,情報を通して見たり聞いたりするうちに,このようなことが現実に自分にも起こるかもしれないと思うようになると述べています。子どもたちを支えるために,私たちは社会や環境を変えていくことが必要です。
成熟した社会を築くためには一人ひとりの健全な自己愛の成長が問われます。本来,嫌悪し攻撃すべきことは,実は自分の中にあるのだが,他者にあるものとして嫌悪し攻撃している,この未熟性に気づき自らの罪悪感と向き合うことが健全な自己愛の成長をもたらします。葛藤に耐える心が養われるなかで,自らが手にしている恩恵に気づき感謝が生まれます。
生きていく中で避けて通れない喪失があり,成長過程で厳しい時間を過ごすこともあります。試練を乗り越えて行けるのは,真摯に生きる役割モデルを得,希望を失っていないからです。未来への信頼がないところには,希望はありません。私たちは,子どもの未来を不信に満ちたものにしてはなりません。
この原稿を書いている今,外は時おり雪が舞い,木をしならせる風の音が聞えます。 そんななか,子どもの声が聞えています。「ゆーきやこんこ あーられやこんこ」お母さんが待つ家に,スキップしながら帰っていくようです。子どもがのびやかに羽ばたいていける,そんな地域づくりのためにこれからも貢献していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2017年1月22日
NPO法人グリーフワークかがわ
理事長 杉山洋子
*引用文献 リンダ・ゴールドマン 著
天貝由美子 訳
子どもの喪失と悲しみをいやすガイド―生きること・失うこと―
創元社 2011年
◆平成28年度グリーフカウンセラー養成講座・基礎コース終了報告◆
認定NPOグリーフワークかがわ
副理事長 夛田敏恭
平成28年度のグリーフカウンセラー養成講座・基礎コースは、10月6・13・20日、11月10・17・24日の全6回の日程でサンポートホール高松会議室で行われました。今年度の準備会では、講議内容のあり方について議題に上がり、カリキュラムの見直しも考えられましたが、本年度は各回にテーマを決め、テーマごとの事例を持ってロールプレイングを行い、ディスカッションを持って振り返り、共有することで理解を深めることを目的に行うことと決まりました。
今回は定員を超える、14名の多数の受講申し込みがありました。第1回目の担当者振り返り会議では、受講者のグループ分けの方法や、アシスタントの介入方法などの立ち位置について話し合われました。それは、会場スペースによる各グループの距離が近いことで、集中の妨げになることが懸念されたことや、受講者の率直な感覚を介入によってアシスタントが誘導するのではないかということでした。グループ分けは、次回からテーブルの撤去により改善されましたが、アシスタントの介入方法については、考え方や流れによる対処法に戸惑う場面があり、アシスタントの難しさを知る機会となり、良い経験をさせて頂きました。改めて、養成講座の重要性を実感しました。私自身も養成講座の受講者を経験しています。その後、認定カウンセラーとしてアシスタント・講師を行っていますが、毎回気付かせてもらうことが多く、日々学ぶことの重要性を痛感します。
本年度の受講生の皆さんは、ロールプレーに対して積極的に取り組まれ、その後のディスカッションでも自身の感じたことを語っていました。回数を重ねるたびに、最初に感じたことからの変化にも目を向けられるようになり、カウンセリングに対する考え方も変化していったようです。主担当からの資料を貰って行うロールプレイングと、実際のカウンセリングとでは大きな違いがあります。短い時間でのロールプレイングで、答えの無いままの時間切れを体験し、消化不良感を感じ取れたことが次回の講座に繋げられていったと思います。
この講座を通してグリーフケア(ワーク)を知り、カウンセリングの意味や効果、重要性に少しでも興味を持っていただき、これからの生活に活かせていただきたいです。今回の認定グリーフカウンセラーに申請頂いた方は、受講生からの9名とホームページからの申請者1名の計10名の申請があり、1月15・22日の面接を行いました。2月に認定と登録を行い、3月には拡大認定カウンセラー会議を実施し、4月以降で研修会を行う予定となります。
認定グリーフカウンセラーに登録されたからと言って、直ぐにカウンセリングに従事することではなく、これからの活動でよい経験を積み重ね、カウンセラーとしての知識と経験と技術を持ってグリーフケアに向かい合って下さい。また、グリーフケアを一人でも多くの方に興味を持っていただくような活動にご参加をお願いします。新しく認定グリーフカウンセラーになられる方と、グリーフの正しい知識と理解の有る社会になっていく活動を今後も一緒に行っていきたいと思います。
◆リビングwithグリーフ◆
未来志向~いかに自分史を書き替えるか~
花岡 正憲
新年は,人が1年のうちで最も未来志向になる時である。合格,縁談,就職など初詣の祈願には,自分の歴史を書き替えたいという思いが込められている。人生の節目では,新しく生きていくために,不完全であっても,自分史の書き替えが必要になることがある。
自分の将来を覗きたくなり,おみくじを引く。吉と出るか凶と出るか,一か八かで未来と向きあう。自分にとって都合の良い未来と出会うまで,何度もおみくじを引き直すということはしない。過去となってしまった未来の記憶と対話しながら,ここでも自分史の書き替えが起きる。
未来は,過去の記憶の不完全な想起を出発点にしている。記憶があるのは過去についてだけである。未来については,記憶はない。未来についてあるのは期待や不安であり,記憶をどう書き替えるかは,その時の感覚や気分に左右されがちである。PTSD(心理的外傷後ストレス障害)や悲嘆反応は,記憶の想起に苦痛を伴うが,一般に記憶は,当人にとって苦痛が少なく想起できるように作り替えられて行く。
政治家が掲げる戦後レジームからの脱却と未来志向は,歴史修正主義と見なされがちである。歴史上の過ちやネガティブな体験の記憶を,個人的な信条や独善的な国家主義によって都合良く書き替えようとしていることが透けて見えるからだ。
ネット社会では,post-truth(ポスト真実)やalternative fact(代替的事実)という記憶の書き替えが,行われやすい。これは他者との対話を受けつけないモノローグ(独り言)に過ぎず,「うそ」の記憶に他ならない。記憶の想起の不完全さ以前の問題と言えよう。
記憶の書き替えの不完全さを補うには,他者とのダイアローグ(対話)が欠かせない。現存する身近な人たちや,故人となった人も含め,直接的,間接的に自分と関わりがあった他者との対話があってこそ,内なる声を聞き,新たな自分への気づきがあると言うものであろう。
自分史の書き替えには,喪失の記憶の想起と書き替えが伴う。その過程は,これまで関わりがあった人を情緒的に再配置して,新たに生きていく心の営みでもある。
ラインホルド・ニーバー(1892-1971)の「平静の祈り」に,「神様,私にお与えください。変えることのできないものを受けいれるだけの平静さを。変えることのできるものを変えるだけの勇気を。そして,変えることのできないものと,変えることのできるものを見分ける賢さを」と言う言葉がある。
未来志向の祈りは,人それぞれの自分史の書き替えの姿でもある。そのためには,失われたままのものと,回復できるものを見分ける冷静さが求められる。
(グリーフカウンセラー 精神科医)
2017・2・5
報告
◆2017年1月12日 第102回 理事会開催◆
《審議事項》
第1号議案
2017年度香川県自殺対策事業の実施予定に関する事項
長期研修に関する実務者研修に関して、事務局より香川県障害福祉課橋本氏へ問い合わせたところ、国の判断基準によって今年度については研修内容を実施事業に活かす場合に限り認められることになっているが、来年度以降に関しての予算に関しては不明である旨の回答がなされた。今年度の実務者研修に関しては、1-3月に外部講師によるスーパービジョン研修などを開催し、来年度の事業計画については、3月理事会までに、実務者研修に関する予算を盛り込んだ具体的案を立案することで承認された。
第2号議案
会員の研修に関する規程に関する事項
「特定非営利活動法人グリーフワークかがわ出張旅費規程(案)」に関して審議され原案通り承認され平成29年1月12日施行とした。
第3号議案
新規事業「グリーフワークデイ(仮称)」に関する事項
平成29年3月11日グリーフワークデイに関して審議され,以下の件について承認された。会場丸亀町ドーム設置物配置図に関して長机2台、椅子4-5脚をレリーフ円内に配置することとし、掲示用パネルの設置は行わず、PR用ポスターを作成すること。ポスターの案を作成後、高松丸亀町商店街振興組合に問合せ、製作・印刷を依頼することとする。「子どものグリーフワーク週間」のA4チラシは200部をAIYAシステムに印刷依頼すること。500部準備予定のブロシュールのセットは、自由に持ち帰れるよう設置し、チラシを中心に配布すること。アウェアネスリボンを作成・配布すること。「喪失を経験した子どもの親・保護者のためのグループミーティング」ブロシュール(仮)を数10部準備すること。
第4号議案
事務局体制に関する事項
審議未了。
第5号議案
共同募金事業に関する事項
香川県共同募金会事業に関して、2016年度は公開セミナーおよび身近な人をなくした方のグループミーティングを行っており次年度の事業助成も予定されているが、2018年度は「香川県共同募金会平成30年度テーマ募金」について申請、応募することで承認された。2017年4月以降に応募受付となるため2018年度の事業計画について今後の理事会にて審議を進めていく。
第6号議案
冊子「喪失の危機を克服するためのハンドブック」の改訂に関する事項
審議未了。
◆2017年1月15日 第52回 認定カウンセラー会議◆
【審議事項】
1.グリーフワークディについて
- 第51回認定カウンセラー会議以降の経過と第102回理事会での決定について,理事長より説明があった。現在,丸亀町壱番街前ドーム広場の使用について事務局より申請を行い,内容や備品の貸し出し等の説明を行って回答待ちの状態である。正式に回答があった段階でチラシやポスター(パネル)の発注に取り掛かる。
- チラシ,パネルの原稿が示され,グリーフワークのawareness dayという目的に合うように,対話を行えるような配布の仕方をすることが確認された。
- awareness ribbonの色の決定,ribbonの購入,準備作業の日程については,調整し,会員に周知する。
2.その他
・第28回公開セミナー(3月5日開催予定)について
理事長が担当し,テーマは,グリーフワークデーとの関連で考えているとの説明があった。
【勉強会】
議題での話し合いで予定時間終了となったため、今月の勉強会は行われなかった。
次回予定:子どもの喪失と悲しみを癒すガイド 第2章「悲しみの神話」 担当者:上野美幸