2018(平成30)年1月グリーフワークかがわ
ニュースレター第165号(HTML版)
2018(平成30)年2月7日 グリーフワークかがわ広報部
◆~新年によせて~理事長メッセージ◆
大寒に思う~名人は人に問う~
二十四節気のひとつ大寒を迎えました。二十四節気は,太陰暦を使用していた時代,中国で季節を現すための工夫として考え出されたものです。日本では,日本の気候に合わせるためにさらに区分けが加えられています。私たちは長い歴史のなかで育まれてきた文化に支えられて生きています。季節の区切りを決めるために,人々はどのような知恵を出し合い,どのように意見を交わしてきたのでしょうか。暦のうえの大寒という文字を見てあらためて思うことです。
ある会議に出席したときのことです。出席者の一人がこんなことを言われました。
話し合いの場で,突拍子もない意見を述べる人がいる。とても実現は無理だと思うことは,議論しても時間の無駄になるだけなので,上席者としての責任で,無理だと言うことにしてきた。そうした中で,次第に,特に若い人たちからの発言が減り,指示待ちの姿勢が目立つようになった。ある時,部下の発想に対して,そこに至った経緯を詳しく聴かせてほしいと尋ねる機会があった。聞くと,とても実現不可能だと思っていたことであったが,解決を可能にする埋もれたヒントが浮かび上がってくることに気がついた。実現が無理だと思ったのは,限られた自分の経験の枠組みでの判断に過ぎなかった。率直な意見を発言できる環境を作ることが上司の役割であることに気づかされる機会になった。
何か事業を始めようとするとき,担当者で事前に議論を重ね,方針やスケジュールなどを固めます。この段階で,あらためて関係者に説明を行ない,そこでも質疑や意見交換が行われます。反対意見や盲点を突いた意見が出されることもあれば,事業計画の根本的な練り直しを求められることもあるでしょう。担当者にとっては自己評価が傷つく場面もあります。しかし,緊張感のある議論は,それだけ関係者が真剣に課題に向き合っている証でもあります。大切なことは,あらかじめ用意された結論に議論を導くことではなく,議論によって新たな気づきがもたらされることです。
傾聴とは,ただ相槌を打って人の話を聴くことではありません。相手の心の事情を真剣に理解しようとするとき,聞き手には,ここのところをもっと知りたいという思いが起きてくるものです。グリーフワークという心の過程に寄り添うためには,問いかけることがとても大切なことがあります。
「名人は人に問う」と言われます。あらためて「問」の一字を心に刻み,一年の計に臨みたいと考えております。
2018年1月20日
NPO法人グリーフワークかがわ
理事長 杉山洋子
◆第31回グリーフワークかがわ公開セミナーご報告◆
テーマ「小さな命を想うとき~ペリネイタルロスのグリーフを通して」
今月はGWK認定グリーフカウンセラー、看護師、思春期保健相談士、ポコズママの会中四国代表、ポコズママの会くらしき代表、である中里陽子氏とGWK認定グリーフカウンセラー、ポコズママの会たかまつ代表のローマ真由子氏両名の講師でセミナーを開催いたしました。
中里氏からご自分の喪失体験について、その体験から現在の活動を始め、続けるに至った経緯についてお話がありました。そして、一般の人にあまり知られていない言葉や定義について実際にあったお話を交えながら分かりやすい説明がありました。
セミナーのテーマにもなっている「ペリネイタルロス」とは、『流産、死産、人工死産、新生児死亡、人工妊娠中絶など、お産をとりまく赤ちゃんの喪失』という意味です。 そして、グリーフ、グリーフワーク、グリーフケアについての説明に続いて流産、死産の定義について教えていただきました。
- 流産定義(早期流産12週まで、後期流産の時期21週6日まで)
- 死産定義(22週以降の死産)
- 早期新生児死亡(生後7日未満の死亡)
- 新生児死亡(生後28日未満までの死亡)
- 周産期死亡(22週以後の死産)
次に周産期におけるグリーフケアについての説明がありました。親になると同時に赤ちゃんの最後を迎えなければならない、誕生死であれば親御さんと赤ちゃんが一緒に過ごす時間は数時間しかないことなど具体的な例があげられました。
ここで、中里氏が看護師になって初めて患者さんの死を体験し、それからメンタル的に強くなったこと、それでも息子さんを亡くされた時には立ち直るにはかなりのパワーが必要だったことを話して下さいました。
次にある病院でのグリーフケアについてお話がありました。その病院では分娩後に両親と共に、沐浴、手形、足形の採取、毛髪、爪などの採取、家族で過ごす時間の確保をしているそうです。中には拒否をされる親御さんもいらっしゃいますが、何かを残すなら「今」しかないのだから、医療従事者は、まず残しておき、正常分娩と同じように母子手帳もお渡しし、それを捨てるかどうかは気持ちが落ち着いてからご本人が決めればよい、と中里氏は話されていました。
2000年以前は、赤ちゃんは3日くらいしか地上にいないのに赤ちゃんと一緒に過ごさせないことが多かったそうです。
また、退院後のケアとして、電話訪問、一ヶ月検診時の面談、次子妊娠時の継続的ケアが行われているそうです。現代のケアの流れとして、お子さんを亡くした女性へのケアの提供から「夫婦単位」へのケアの提供になっています。(流産、死産への受け止め方の違いで離婚率が上がる。)兄弟・祖父母へのケアも提供されます。
「亡くなった赤ちゃんに会わせて子供が傷つきませんか」という質問があるが、子供は大人より赤ちゃんと認識出来るとのことです。実母、義母は夫婦の意向を聞かずにことを決めようとする傾向があるので「時間をかけて下さい。見守って下さい。」とお願いするそうです。
次に時代の流れと命の捉え方の問題についてお話がありました→不妊治療の進歩で一つの妊娠を「次の妊娠」につなげて捉えるようになった。
次に人工妊娠中絶のケアの重要性についてお話がありました。若者の反復中絶の防止のために医療者も中絶後に家に帰った時に支えてくれる家族がいるのか、親身に寄り添ってくれる人がいるのかを確認する必要がある。また、命の授業での性教育の場面では、虐待されている子供の心のケアが難しく、「愛されている」となかなか伝えられない現状がある、とのことでした。
ペリネイタルロス支持者の姿勢については、電話相談の減少、ピアサポートの現状(SNSの普及、ネット交流)匿名性を求め、引きこもっている人が多い、対面サポートの意義についてお話がありました。 ピアサポートについては、次子出産と生まない選択、振り返り作業の辛さ、そこにとどまる必要なくて次に進んで良い、経験者は流動的で良い、専門家の協力などについて説明がありました。
ここでローマ氏からペリネイタルロスのサポート団体、「ポコズママの会」で行われている小さな赤ちゃんの肌着作りについて説明がありました。たくさんの可愛らしい手作りの肌着やベビードレス、おくるみ、棺カバーや小さいおふとん、オーナメントで飾った小さな棺を見せていただきました。小さな赤ちゃんもおくるみがあると抱っこ出来ること、棺に思い出の小物を入れて赤ちゃんが寂しくないようにすることなどのお話がありました。
最後にスライドがありました。
「子供が宿った時から女性は母になっていく。どんな命も意味がある。ひとつひとつが大切な命。たくさんの天使から教えていただいている。」という内容でした。
以下は、講義の後の質疑応答です。
- Q1:性教育に関して、教育の場が難しいとのお話がありましたが、どのように難しいのでしょうか?
- A1:「生まれてよかった」と思ってもらうのが難しい現状があります。大切にされていな現状が実際にあるからです。個別性を見て、伝えていくことが大切だと考えています。
- Q2:葬儀社の者ですが、「お母さんの姿がない葬儀が行われていた時期が長かった。お子さんの名前をつけずに葬儀を行ってきた。夫婦、家族のケアを葬儀社はなかなか入っていけなかった。核家族になって夫婦の意向が通るようになった。相談する場所がなくて辛い想いをされている」これらのことを今までは無視してきたことに葬儀社として心が痛んでいます。これから変えていきたいと思います。
- A2:病院側にもポコズママの会の活動などを知っていただいて協力をお願いして行きます。
- Q3:保健師さんは母子手帳を渡すなどサポートする機会があると思いますが、保健師さんたちからのケアは行われているのでしょうか?
- A3:保健師さんたちも手いっぱいでなかなかサービスは動いていません。資料を渡すなどをして行きます。
- Q4:男性側からの質問です。25年前死産を経験しました。テレビなどで赤ちゃんが出てきたりすると気持ちがざわざわします。家内もそうだと思うのですが、表面には出しません。この気持ちがいつまで続くのか、どう対応すればいいのか、自分自身がどう終わるのかを知りたいです。下手にこの話題を出して、せっかく家内の中でバランスをとっている気持ちが崩れてしまうのではないかと話し合えません。
- A4:忘れることは絶対にないと思います。名前はつけられましたか?つけられたのであれば名前を呼んであげて下さい。奥さんのお気持ちを聞いて下さい。夫婦のコミュニケ―ションを取ることが大切だと思います。
セミナーが終わった後も参加者の方々が机の上に置かれた小さな赤ちゃんの肌着やベビードレスを手に取ったり写真を撮ったり、講師の二人に質問したり話をしたりされていました。
小さな赤ちゃんの喪失のお話は感情を揺さぶられるものがありました。目を赤くされて帰られた方もおられましたがセミナー会場は大切な命を想う温かい空気に包まれていました。
記録者 戸部 幸与
◆リビングwithグリーフ◆
「清め塩」と葬儀
花岡 正憲
葬儀に参列すると,会葬礼状などに「清め塩」が添付されている。この塩は,葬式から帰宅した時に,家へ入る前に振りかけ,身体を清めるためのものとされている。
清め塩はもともと神道で用いられる儀式で,死を穢れとしてこれを祓うためのものとされる。日本は古来,神道に結びついた慣習が少なくなく,仏教行事においても清め塩が,災厄を除くための神事の延長として残っていると言われる。
先日友人の葬儀に出る機会があった。仏式で行われた葬儀では,会葬御礼の挨拶状に清め塩の代わりに,「清め塩について」というメモが添えられていた。「仏教の教えに照らし,これを廃止することに致しました。仏教では,生と死は一つであると教えています。葬儀は,愛するものとも,必ず別れなければならないという事実を受け止め,わが身を見つめ直す厳粛な儀式です。仏教では,決して死を穢れとすることはありません」と解説があった。
もともと仏教の教えには,清め塩という習慣はなかったと言うことである。いまさら教義に従い清め塩をやめるというのは,宗教界の怠慢と言えばそれまでだが,おそらくそうした事情だけではないのだろう。
外出から帰ったとき,うがいや手洗いをするように,会葬を終えて帰宅したさい,清め塩でいかにも外的な汚れを落とすかのような行為をするのは,大切な何かを失いそうで抵抗を覚える人も少なくないのではないだろうか。使われず家へ持ち込まれた清め塩が捨てられることもなく,かと言って食用に供されるでもなく,しばらく目に見えるところに置かれている家も少なくないだろう。
喪失と悲嘆の作業(グリーフワーク)の過程は,喪失の事実を受けいれ,故人のいない環境に適応し,故人を情緒的に再配置して生活を続けていくことである。
故人を情緒的に再配置し生活するとは,故人が教えてくれたもの,残してくれたものを自分の人生の一部として内在化することである。自分の精神と身体を延長して故人が与えてくれたものを包み込む。遺品を身につけることもその一つだ。葬儀の場面の「骨かみ」は,現在も各地に残っている。自分の大切な人の遺骨であれば,食べてみたくなる気持ちは,自然な感情だと言えよう。
葬儀は本来故人の活動や生き方を追体験する霊的(スピリッチュアル)時間である。今日,葬儀は家族葬や密葬など小規模化,簡素化の方向にある。経済的事情だけでなく,葬儀を儀礼的,外形的なものではなく,身近な精神的営みの機会にしたいというのは,多くの人の思いであろう。
「清め塩」の廃止は,むしろ業界や宗教界が,遺族や関係者など生活者のニードに添う方向で見直されるようになったものなのだろう。
(グリーフカウンセラー 精神科医)
2018・1・29
◆第32回グリーフワークかがわ公開セミナーのご案内◆
日時:平成30年2月18日(日)13時00分~14時30分
■テーマ:「大切なものを失った子どものこころ」
死別、両親の離婚、転居、病気、家族と、友達と、ペットとあるいは大好きだったおもちゃと。こどもたちの喪失体験にも様々なものがあります。
大人の私たちでさえ喪失を経験する中では悲嘆の波にのまれどうしようもなく身動きが取れなくなることがあります。子どもたちの様々な悲嘆の表現や発達に応じた捉え方を学びながら、子どものグリーフワークを支えるために大人の私たちに何ができるか。皆さんとともに考えたいと思います。
■講師:上野美幸
2017年度セミナーの今後の開催予定は、下表のとおりです。
回数 | 開催日 | 講師 | テーマ |
第29回 | 2017年 11月19日(日) |
瀬尾 憲正 (グリーフワークかがわ理事・ グリーフカウンセラー) |
「生き方が逝き方」 上手に生き、上手に逝く:スマートエイジングの勧め |
第30回 | 2017年 12月10日(日) |
西山 忠明 (グリーフワークかがわ理事・ グリーフカウンセラー) |
それぞれのグリーフワーク |
第31回 | 2018年 1月14日(日) |
中里 陽子 (グリーフカウンセラー) ローマ 真由子 (グリーフワークかがわ理事・グリーフカウンセラー) |
『小さな命を想うとき』 ~ペリネイタルロスのグリーフを通して~ |
第32回 | 2018年 2月18日(日) |
上野 美幸 (グリーフワークかがわ理事・グリーフカウンセラー) |
大切なものを失った子どものこころ |
第33回 | 2018年 3月18日(日) |
夛田 敏恭 (グリーフワークかがわ副理事長・グリーフカウンセラー) |
葬儀からみるグリーフ |
- 会場:丸亀町商店街カルチャールーム(高松市丸亀町1番地1 壱番街東館4階)
- 参加費:500円(当日会場でお支払い下さい)
- 企画運営:認定NPO法人 グリーフワークかがわ
電話090-6288-1011 - ※どなたでも参加できます。事前予約不要
~この事業は2017年度赤い羽根共同募金の助成金を受けています~
報告
◆2018年1月14日 第115回理事会◆
《審議事項》
第1号議案
認定カウンセラー資格更新に関する事項
資格更新についての細則は本理事会にて承認され施行されることとなった。認定カウンセラー会議,認定カウンセラー拡大会議において資格更新について説明すると共に周知を徹底する事となった。
第2号議案
2017年度グリーフワーク・デーに関する事項
内容については昨年と同様のヴァイオレットリボン活動とする。街頭キャンペーンは3月11日(日)10:00~13:00,場所はJR高松駅前とし,高松北署交通課で許可をとること,プラカード,チラシ,アウェアネスリボンの準備は3月1日(木)に相談室にて準備することで了承された。
第3号議案
事務局員確保に関する事項
理事長から,会計担当理事から業務の引継ぎの要望が示されていること,事務局の業務について会員に打診した経緯について説明があり,事務局員確保についての審議がなされた。会計業務についての具体的な作業を挙げて継続審議をすることで了承された。
第4号議案
冊子「グリーフワークのすすめ」の改訂に関する事項
4社から見積もりを取り印刷会社を成光社とすることで了承された。引き続き同社へ冊子のISBN取得について問合せする事となった。
第5号議案
2017年度事業報告と2018年度事業計画案に関する事項
理事長が来月より具体的にそれぞれのスケジュールを提案していくこととなった。ブロシュールの再版については内容を今一度確認し,一部修正することで了承された。
第6号議案
モデル事業「喪失を経験した子どもの親・保護者グループ」ひまわりミーティングに関する事項
ひまわりミーティングのみではなく,グリーフ,グリーフワーク,グリーフケアという言葉を広く啓発するために,メディアには積極的な姿勢を取っても良いと確認された。ひまわりミーティングの広報については,次回ワーキングでの来年度の計画が決定した後,検討することで了承された。
第7号議案
認定カウンセラー拡大会議に関する事項
2017年度認定面接,認定委員会を経て,新たに認定されるグリーフカウンセラーを加え,3月18日㈰に開催される認定カウンセラー会議を拡大会議とする事と決定した。2月末に新しく登録される認定カウンセラーには郵送にて案内する事となった。
◆2018年1月21日 第63回 認定カウンセラー会議◆
【議題】
- 認定カウンセラー資格更新について
更新制度について,ワーキンググループ,認定カウンセラー会議での検討を経て,第115回理事会で更新制度が決定された。理事長から経緯と更新条件の説明があり,確認のための質疑が行われた。 - 2017年度グリーフワーク・デー街頭キャンペーンについて
3月11日~16日をグリーフワーク週間,内容は「子どもの声が聞こえますか」とすること,3月11日(日)10時から13時まで街頭キャンペーンを行い。アウェアネスリボン「ヴァイオレットリボン」とチラシを配布すること,場所の候補として高松駅前で情報収集を行っていることの説明があった。3月1日(木)18時半よりGWK相談室でアウェアネスリボンの作成とチラシの準備作業を行う - カウンセリングの現場での状況報告と課題について
モデル事業として実施している「ひまわりミーティング」ついての状況報告があり,広報の方法,役割分担などについて話し合われた。 - 認定カウンセラー拡大会議について
2017年度に認定されるグリーフカウンセラーを加えた拡大会議を3月18日とし,4月には実務者研修を行う。
【勉強会】
文献:さくとさようならーきょうだいを亡くしたマナのお話
発行 公益社団法人被害者支援都民センター 2015年3月発行
担当:瀬尾憲正
第1章~第3章
- 子どもが家族との離別や死別を経験すると自分を責めることがよくある。思いを言葉にできないことも多く,絵本を読んだり話をして「あなたは悪くないんだよ」と大人が伝えることが大切である。そのことを大人が知っているか知らないかで大きな違いがでてくる。家族に何かが起きていることについて,子どもは怖い思いをしているかもしれない。子どもにきちんと説明することが重要である。
- ひまわりミーティングで保護者といっしょにきた子どもの心のケアも気になるという意見もあるが,まず保護者を対象とするミーティングを行っていく。
- 次回は第4章から8章までを行う。3月は拡大会議のため勉強会は休みとし,4月からは「子供の悲しみによりそう」という本がテキストになる。