2019(平成31)年1月グリーフワークかがわ
ニュースレター第177号(HTML版)

2019(平成31)年2月14日 グリーフワークかがわ広報部

~理事長メッセージ~


***新年によせて***
~真なる支えが行き交う地域づくりを目指して~


「故意にある一定の高さにまで注意力を緊張させようとするやいなや,すでにわれわれは,そこに提供される材料からの選択をはじめたことになる。」これは,精神分析の父といわれるフロイトが,自由連想法という精神療法の技法について述べたものである。肝腎なことはただ,聴き取られる一切の事柄に対して,“差別なく平等に漂わせる注意”を向けることだという。(*)

このことは自由連想法というひとつの技法に限ったことではなく,人のこころを理解しようとするときの原則だと思う。心の過程を理解するために必要なことは,虚心坦懐に相手の話を聴くこと,細かいことも見落とさないこと,そして批判や評価をすることなく,事実を平常心で受け止める聴き手となることである。

グリーフワークという心の過程に寄り添うとはどういうことかが話題になるとき,ともすれば,聴き手は何を言えば良いのだろうか,どのような態度をとるべきなのかといった方向に議論が傾きがちである。しかし,まず,事実として何が起きたのか,失われた人やものは何なのか,それによって語り手にとって失われた大切なものは何なのか,そして今も失われたままになっているものは何なのか,といったことを丁寧にたどって行くことが,グリーフワークの過程である。

近年,情報の過剰消費によって,喪失の事実と悲嘆は心の片隅に押しやられ,これが確かな自分だと思える生き方ができ難くなっている。こうした時代だからこそ,聴き手に求められるのは,喪失の中にあっても,残されたかけがえのないもの,回復して行くもの,そして新たに生まれつつあるものに語り手が気づけるようになるための落ち着きであろう。

私たちにとって真の支えになるのは,耳に心地よい慰めの言葉ではない。真実をともに見つめようとする誠実な聴き手の存在である。その支えがあれば,悩みや未解決な問題を抱えていても,生き抜く自分の力を信じられるようになるのではないだろうか。失ったものに代るものを与えようとしたり,別の世界に(いざな)おうしたりすることは,新しい生き方へ踏み出せるどころか,心の傷を深くするだけであろう。

母親の腕に抱かれた小さな子が,北風に顔を向けて髪をなびかせている光景が今も印象深い記憶として残っている。それは,あたかも,はじめて風を発見したかのように,全神経を集中させて風を感じ取ろうとしている表情だった。一つひとつの経験を新鮮に感じる子どもたちは,いまこの瞬間に向き合い,一日を丁寧に生きる大切さを教えてくれる。


*引用文献:ジークムント・フロイト 著 小此木啓吾 訳
分析医に対する分析治療上の注意(1912年)
フロイト著作集第9巻1983年 人文書院


2019年2月3日

NPO法人グリーフワークかがわ
理事長  杉山洋子



◆リビングwithグリーフ◆


墓じまい

花岡 正憲


私のお墓の前で 泣かないでください
そこに私はいません 眠ってなんかいません
千の風に 千の風になって


2003年,新井満が訳詞・作曲をつとめた『千の風になって』の歌詞である。2006年に秋川雅史によるバージョンが発表され,一般的に知られることとなった。これについては,葬礼習俗への挑戦ともいえると宗教関係者からの批判があった。

お墓を撤去し,遺骨を他の墓地あるいは永代供養墓地に移す墓じまいが増えている。墓を管理する子ども配偶者もいない,いても墓の管理という後世の負担を少なくしたいという現役世代の事情がある。

お墓は,先祖供養として大切な場であると,このところの傾向に異論を唱える宗教家もいる。とは言え,無縁墓が増えている実情もある。親族墓地には,数十基の墓石があるところもあり,管理責任を負う者にとっては物理的負担も大きい。むしろ,先祖から子孫を含めた家族を大切に思うからこそ墓じまいを考えるとも言える。

近年,社会課題になっている空き家,空き店舗,休耕地などに見られるように,墓地管理も後継者問題の一つであろう。後継問題が,現在の家族生活に影を落とし,家族関係を歪め,家族が病んでしまうことも少なくない。

墓じまいが急増する今日,モノとしての墓は私たちにとって何なのか考えてみるよい機会であろう。

「家事」の一つである宗教的儀式は,家族制度と密接につながっていた。旧民法では,家督の継承によって,家名や土地家屋に加え,墓地と位牌の管理者として戸主に権利と義務が与えられ,家族を統括してきた。戦後,工業化により核家族が発生してからも,盆と正月の里帰りによって,盆業や墓参という宗教儀式を主催する戸主の求心力が保たれていた。

1947年,家制度が廃止され,核家族化,家族の離散,少子化が進む中で,今日,家事としての宗教的儀式が,負の遺産となりつつある。その負担を軽くしたいという思いはもっともなことであろう。

墓や墓地は,単なるモノではなく,精神的遺産としての継承物であることは言うまでもない。墓地や墓参は,人がスピリッチュアル(精神的,霊的)になれる時間と場所を与えてくれる。そうしたことから,墓じまいは,現代社会におけるスピリッチュアリティの劣化の反映なのかと言えば,それは否であろう。

ある特定の対象にある属性があるかのように擬えることを物象化と呼ぶ。スピリッチュアリティが高まれば,それだけ宗教的慣習として固定化されたものは,簡素化ないしカスタマイズ化されて行くことがあっても不思議ではない。

散骨,樹木葬,生前葬など,遺族ではなく,故人となる人のライフスタイルとリビングウイル(生前の意思)を取り入れた弔い方も広がりを見せている。墓じまいの背景には,こうした弔いの多様性もあるだろう。

人がスピリチュアルになるための伝統的な方法があるわけではなかろう。宗教界も,ためにする議論ではなく,この問題に正面から向き合っていくことが求められている。

墓じまいは,私たちの社会が,少子高齢化,人口減少という喪失の問題と向き合わざるを得ない,大きな流れの中で起きている事象であろう。


(グリーフカウンセラー 精神科医)
2019・1・21



◆グリーフワークかがわ公開セミナー第38回のご案内◆


  • 第38回公開セミナーチラシイメージ

日 時:2019年3月3日(日)13時00分~14時30分

会 場:丸亀町商店街カルチャールーム

テーマ:思ったより近くにある死別と喪失感

講 師:夛田敏恭(多田会館代表取締役社長グリーフワーク認定カウンセラー)

【内容】

無くす、失くす、喪う、など喪失にも色々あります。
それに伴う喪失感も人それぞれです。同じ喪失でも、大きさ深さは、その時々により変わるものです。身近にある喪失感に気付くことで、自分と向き合い知ることが出来るかもしれません。
一緒に考えてみましょう。


~2018年度公開セミナーの開催日程~

回数 開催日 講師 テーマ
第34回 2018年
11月18日(日)
13:00~14:30
溝淵 由理 被災後のグリーフワークとグリーフケア
第35回 2018年
12月16日(日)
13:00~14:30
瀬尾 憲正 在宅での看取り
第36回 2019年
1月20日(日)
13:00~14:30
上野 美幸 大切なものを失った子どものこころ
第37回 2019年
2月17日(日)
13:00~14:30
中里陽子
ローマ真由子
「小さな命を想うとき」
~ペリネイタルロスのグリーフを通して~
第38回 2019年
3月3日(日)
13:00~14:30
夛田 敏恭 思ったより近くにある死別と喪失感
  • 会場:丸亀町商店街カルチャールーム(高松市丸亀町1番地1 壱番街東館4階)
  • 参加費:500円(当日会場でお支払い下さい)
  • 企画運営:認定NPO法人 グリーフワークかがわ
    電話090-6288-1011
  • どなたでも参加できます。事前予約不要



◆2018年12月22日 第128回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

ラジオ放送での発言内容に関する事項

第127回理事会以降の経過が説明され,今後も関係者との対話を通して,対処していく方針であるため、関係者に協力をお願いする方向で了承された。

第2号議案

技術援助事業(ゲートキーパー普及啓発事業)に関する事項

香川県精神保健福祉センターから,学校薬剤師会所属の薬剤師を対象とするゲートキーパー普及啓発事業についての講師派遣依頼の打診があり,講師,アシスタントについては杉山理事長より人選していくことで了承された。



◆2019年1月13日 第129回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

ラジオ放送での発言内容に関する事項

前回(第128回)の理事会での決議を踏まえ,理事長が事実関係の確認方法について提案を行なったが,現時点では提案が受け入れられていない。今後の推移を見守りながら,その都度必要な対応を行なっていくことで了承された。

第2号議案

2018年度末から2019年度総会までのスケジュールに関する事項

以下のとおりのタイムスケジュールが承認された。①3月17日:認定グリーフカウンセラー拡大会議,②4月25日及び28日:相談業務実務者研修,③3月10日のグリーフワークデイに向けての準備。

第3号議案

2018年度香川県地域自殺対策強化事業に関する事項

理事長から,障害福祉課から相談件数等「2017年度の実績」について確認があったことが報告された後,ブロシュールの増刷と発送を行うこと並びに機会があるごとに,相談事業と実務者研修について周知を図ることで了承された。

第4号議案

認定グリーフカウンセラー資格更新制度に関する事項

更新手続きの事務作業等は,相当量の人的経費の発生を伴うため,更新料を有料の10,000円とし,「特定非営利活動法人グリーフワークかがわ認定グリーフカウンセラー資格更新手続き要項」の第6項の「更新手続き料金」に「10,000円とする」明記することで了承された。

第5号議案

NPOマネジメント講座と講師と地元NPO団体との意見交換に関する事項

香川県男女参画・県民活動課から案内があった1月31日(木)14:00~16:00開催の認定NPOマネジメント講座には,夛田敏恭副理事長が出席すること,また当日の講師特定非営利活動法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会代表理事関口宏聡氏から杉山理事長宛に申し入れがあった意見交換会については,理事長が認定NPO法人マインドファーストとNPO法人子どもの虐待防止ネットワーク・かがわにも呼びかけ,同日18:30からグリーフワークかがわの相談室で行うことで了承された。

第6号議案

平成30年度香川県自殺対策強化月間(3月)自殺予防キャンペーンに関する事項

香川県障害福祉課から,当法人へ参加呼びかけがあった標記キャンペーンについては,以下のとおり理事会の要望を申し入れることで了承された。県側の実施スタッフが障害福祉課とその出先機関の精神保健福祉センターとなっているが,自殺予防活動は,多面的重層的に行うべきものであり,本来キャンペーンとは政治的社会的次元における組織的活動であるべきであること。したがって,単に自殺予防関連予算の事業課にとどまらず,健康福祉部子ども政策推進局をはじめ,関連各課部局横断的呼びかけを行い実施されたいこと。昨年度実績で示されている実施日時及び場所について,平日の「午前7:30~8:30 JR高松駅前広場」,対象者は「主として通勤・通学途上の方」となっているが,足早に目的地に向かう人たちに対する僅か1時間の「チラシ」と「ポケットティッシュ」の手渡しにとどまらず,広がりのあるものにされたいこと。



◆2019年1月20日 第75回 認定カウンセラー会議◆


  1. 2018年度テーマ募金について
    1月の寄付の状況報告があり,積極的に募金活動を行ってほしいとの理事会からの呼びかけがあった。
  2. 2018年度香川県地域自殺対策強化交付金事業について
     執行状況の報告があり,今年度内の予定について説明があった。
  3. 2019年度勉強会の文献について
     次回の認定カウンセラー会議までに使用文献の候補を募集する。また新刊書の発行もあり,完成次第,勉強会の使用文献としても利用する。
  4. カウンセリングの現場での状況報告と課題について
     相談現場の課題やコーディネーター対応の段階での課題等について,認定カウンセラー会議等の一定のルールのあるところで共有し,確認,議論を行うことが必要であることが確認された。
  5. その他
     今年のグリーフワークデーは3月11日から3月16日までとし,グリーフワークデーキャンペーンは3月10日に行い、2月13日に準備する次第となった。


【勉強会】


使用文献:
使用文献:「子どもの悲しみによりそう・喪失体験の適切なサポート法」
ジョン・ジェームス、ラッセル・フリードマン、レスリ―・ランドン著
水澤都加佐、黒岩久美子訳
2014年大月書店

担当:吉田亜紀子
範囲「パート5第26章から第29章」

パート5では、死ではない喪失について扱っている。引越しと両親の離婚が挙げられているが、今回は、引越しによる喪失について読み進めディスカッションを行った。

すべての大きな変化は、大人であれ、子どもであれ、情緒的なエネルギー、つまり様々な感情が噴き出すものである。引越しは、小さな家から大きな家に引っ越すケース、経済的事情から大きな家から小さな家に引越しをするケース、ディスカッションでは、家のリフォームによる変化も挙げられた。

また、引越しにより、様々な関係性が変わる。引越しや転校によって、自分が変わる場合、相手が変わる場合がある。このような環境の変化は常に子どもたちのまわりに在る。よって、大人達はどのような変化が子どもたちに起こっているのか、未完の感情をきちんと処理できているか、その点について大人たちは理解し確認し見守る必要があると学んだ。さらに、死ではない喪失について、災害時の被災者とボランティアの方たちとの関係性、患者と主治医との関係性についても話が及んだ。


次回の勉強会は「パート5第26章から第29章」で今回と同じ範囲。
両親の離婚に焦点を当てて行う予定である。吉田担当。