2019年(令和元年)9月グリーフワークかがわ
ニュースレター第185号(HTML版)

2019年(令和元年)10月10日 グリーフワークかがわ広報部

◆リビングwithグリーフ◆


忍びよる「茶色の朝」

花岡 正憲


「鬼畜米英」を掲げた太平洋戦争中は,戦争に異を唱えると非国民呼ばわりされ,官憲に身柄を拘束されることもあった。表現の自由が著しく制約され,西洋音楽は,「米英敵性音楽」として演奏することはもちろん,聴くことも禁じられていた。

戦時中,父は手動の蓄音機で西洋音楽を聴いていた。父が遺した何枚かの洋楽レコードの中に1枚だけ軍歌があった。どんな音楽を聴いているのだと聞かれたときのカモフラージュにしていたようだ。

愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で,河村名古屋市長の「日本の世論がハイジャックされたような展覧」と言った発言や「少女像を撤去しなければ,ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」という脅しなどによって,従軍慰安婦問題を象徴する少女像などを展示した国際芸術祭の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕3日で中止された。

この問題を巡り,検証委員会は9月25日,「条件が整い次第,速やかに再開すべきだ」とする中間報告をまとめた。こうした中で,文化庁は26日,同芸術祭への補助金約7800万円を交付しない方針を固めた。愛知県が補助金を申請した際,交付審査に必要な情報が文化庁に申告されず,手続き上の不備があったと言うのが理由だが,今後の表現の自由における委縮効果を懸念する声が少なくない。

表現や言論の自由に対する脅しは,犯罪であるから警察が対処すべきことである。問題なのは,補助金カットである。文化芸術基本法に定められた「文化芸術活動を行う者の自主性及び創造性を十分に尊重し,その活動内容に不当に干渉することのないようにすること」との基本理念に反する。いつの時代も国家は国民の表現の自由を制限したがる。今回のことは政治の劣化に他ならない。「あいちトリエンナーレ2019」実行委員会会長の大村知事は,国を訴える考えを表明している。

表現の自由とは,すべての見解を検閲されたり規制されたりすることもなく表明する権利である。1966年,国連総会で採択された人権に関する規約,国際人権規約は,人権に関する多国間条約である。経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約,A規約),市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約,B規約)及びその選択議定書からなり,条約と同様の拘束力を持つ。日本は1979年に批准している。

外部に向かって思想,意見,主張,感情などを表現または発表する自由,例えばデモへの参加や政治家の街頭演説に対するヤジなど,一個人として政治的信条の主張や言論の自由もここに入る。こうした個人における自由だけでなく,組織による報道,出版,放送,放映の自由なども含まれる。基本権と言う観点からは,B規約がより重要とされている。

人々は,普段の生活の中で表現の自由を強く意識することはない。この点で,意識しない限り気がつかない呼吸のように,当たり前の感覚の中で過ごしている。しかし,例えば,環境問題へのデモや反原発集会への参加となると,周囲の目を気にするとか,家族の反対などで,参加を躊躇しがちである。自分の臆病さを思い知らされ,ふと不自由を感じることもあるが,「今回は,他にもやることがあるから,自分じゃなくてもいいか」「これぐらいのことは,放っておいても何とかなるだろう」と自分を納得させようとする。

『茶色の朝』は,フランク・パヴロフ作の挿絵本で,ある国が,何もかもが茶色になってしまう物語である。ラジオ放送,新聞をはじめ,飼う犬や猫まで,茶色以外の色は許されなくなる。違反すると処罰の対象になる。人々は,おかしいと思いながら,日々の仕事に追われ,ごたごたを避けるために,こうした危険な動きをやり過ごし,次第に「茶色の守られた安心」の中に身を置くようになる。しかし,ある時,その安心は崩壊する。過去に茶色以外のペットを飼った人は,全員処罰されると言う法律が施行される。

保身や無関心から,言うべき時にものを言わないでいると,すべてが茶色になってしまう。そのときになって,失われたものの大切さに気がついても間に合わない。ファシズムへの警鐘の本でもある。

今回の文化庁の補助金カットは,憲法21条で禁止されている「国による検閲」の兆しと言えなくもない。今後,例えば,こうした動きが起きないとも限らない。国が補助する音楽会では,国歌を斉唱すること,ステージのどこか目につく所に国旗を掲げることなど,こうした政令や省令が出される。人々は,「一寸おかしいのじゃないか」と思いながら,補助金をもらえるなら,「これぐらいいじゃないか」と異を唱えることはしないかもしれない。やがて,反戦や平和に関する曲目は禁じられ,国威を発揚する曲を必ず一曲入れるように内容に干渉してくる。補助金申請だけでなく詳しい事業報告が求められるようになる。内部告発が奨励され,団体活動への規制が強化される。そして,国の補助金制度はなくなるが,事業内容については事前に国の伺いを立てることが求められる。こうした時代が来ないとは言えないであろう。

「茶色の朝」は,グラデーションを踏んで,そっと忍びよってくることを知っておくことも大切だ。


(グリーフカウンセラー 精神科医)
2019・9・22




◆2019年9月8日 第137回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

2019年度グリーフカウンセラー養成講座・基礎コースに関する事項

事務局担当理事より,9月8日現在の受講申し込み状況について報告があり,キャンセルに対する対応についても事務局案で了承された。第3回講師会は9月13日に予定している。

第2号議案

香川県共同募金会令和元年度テーマ募金(令和2年度事業)に関する事項

香川県共同募金会からスケジュールとチラシ送付先についての照会があり,夛田理事より提示された原案通りで回答を行うことで了承された。

第3号議案

NPO法人取得10周年記念事業に関する事項

理事長より,第1回実行委員会の報告が行われた。開催予定は2020年2月9日(日)午後とし,会場 は高松市男女共同参画センター第1~第3学習室を予約済みであること,シンポジウムの内容は地域密着型で,シンポジストと参加者とが対話できるような構成で行うことで了承された。第2回実行委員会は9月19日(木)19時から高松市男女共同参画センターで行い,実行委員長の選任を行うこと,当日の役割については広く会員に呼びかけることで了承された。

第4号議案

2019年度グリーフカウンセラー資格認定に関する事項

グリーフカウンセラー養成講座・基礎コース終了後に2019年度の資格認定審査を行うこととし,認定委員会で準備を進めていくことで了承された。




◆2019年9月15日 第83回認定カウンセラー会議◆


  1. 各相談事業の報告
     8月の相談事業について現状報告があった。
  2. 技術援助について
     継続的に毎年複数回の依頼がある派遣事業に加え,今年度は新たに講師派遣依頼がある。その対応について話し合われた。
     私たちは,臨床心理士や医師などの資格の有無にかかわらず,グリーフワークという視点で地域社会の課題を解決するために活動をしており,当法人としての認定制度も作ってグリーフワークの専門家として活動している。技術援助事業においても,認定カウンセラーをはじめとする会員が,自分の言葉で,グリーフワークについて語ることが地域でのグリーフワークへの理解が浸透していくことに繋がる。認定カウンセラーとして積極的に講師役を引き受けていくというミッションについて確認された。
  3. 実務者研修について
     コーディネーターから実務者研修の方法について説明と積極的な利用の呼びかけがあった。
  4. NPO法人取得10周年記念事業について
     第1回実行委員会の報告があり,内容や方法について話し合った。第2回実行委員会でさらに方向を決めていく。


【勉強会】


今回は実施せず、次回はグリーフワークかがわ倫理綱領の第5条から読み合わせと検討を行う。