2020年(令和2年)1月グリーフワークかがわ
ニュースレター第189号(HTML版)

2020年(令和2年)2月14日 グリーフワークかがわ広報部

◆理事長メッセージ◆


***新年によせて***
初心を忘るべからず


忘れられない光景がある。グリーフワークかがわになる前のグリーフワーク研究会時代のことである。2002年12月のシンポジウム以降,月に一回,事業の企画について話し合うために定例会を行っていた。シンポジウムの終了に伴い,急に会員が減り,そうしたなかで代表の役を引き継ぐことになった。私自身,参加し始めてからまだ日が浅く,不安に襲われていた。毎月少ない人数で机を囲み,話し合いを重ねた。心細さの支えになったのは,そこに集う会員の,たとえ自分一人になってもこの活動を続けるのだという一人ひとりの強い意志だった。当時の会議室とそこに射し込んでいた早春の陽射しは,私にとって行き詰ったときに必ず思い出される光景である。あのときがあったからこそ今があると思える。

その後,2003年7月に遺族支援ボランティア講座を開催し,受講者に呼び掛けて2004年3月に市民グループ「グリーフワーク・かがわ」の設立となった。いわゆる有資格者が軸となる団体ではなく,当事者本位の活動として動き始めた。自称「食堂のおばちゃん」が,試行錯誤しながら手作りでホームページを開設した。ロゴマークの色は,死別体験者の「青い空を見上げた時の空の色が勇気を与えてくれた」「安心して涙を流せるその涙の色,泣いた後に瞳に移る空の色」という語りがヒントになり,スカイブルーに決定した。「身近な人をなくされた方のグループミーティング」は参加者同士のピアカウンセリングの場となった。グリーフワークというこころの過程をようやく歩み始めた人にとって,少し前を行く人の言葉は足元を照らす灯となる。当事者の体験の語りは,人のこころを動かし,ここにグリーフワークかがわの原動力があると言える。

2009年にNPO法人格を取得して10年を経た今,10周年記念シンポジウムの企画を進めている。最初のグリーフワーク研究会の発足からは20年の道のりである。こうして振り返ると,これまでのすべての出会いに,あらためて感謝の思いが込み上げてくる。

「初心忘るべからず」には,三箇条の口伝があるという。(*)

是非の初心を忘るべからず

時々の初心を忘るべからず

老後の初心を忘るべからず

現在も一つの初心であるという自覚を持ち,芸の行き止まりを見せないで生涯を送ることを奥儀とする。世阿弥の教えである。グリーフワークかがわの初心,それは娘を事故で亡くした母親が声を上げたことがきっかけである。専門家は,グリーフワークの知識の乏しさと,自らの未熟さを思い知らされ,研究会を持つことになった。専門家も生活者であり,グリーフワークの当事者なのである。人はすべてグリーフワークの当事者である。その気づきこそが,地域でのグリーフワークの支援を根付かせていく原点である。10周年記念のシンポジウムの出会いと語りが,また新たな気づきを与えてくれるものと信じている。グリーフワークかがわの初心を確認し,またさらなる歩みをすすめていきたい。

*引用文献:風姿花伝・花鏡 世阿弥/小西甚一編訳 たちばな出版

2020年1月26日

NPO法人グリーフワークかがわ

理事長 杉山洋子



技術援助事業
宇多津町自殺予防講演会レポート

「私にもできる心のケア ~心に寄り添いあえるまちづくり~」


  • 日時:2020年1月24日(金)13:30~15:30
  • 場所:宇多津町保健センター4階大会議室
  • 受講者:22名(地域住民と相談支援担当者)
  • 配布資料:レジュメ,ワークシート,ファクトシート
  • 担当講師:認定NPO法人グリーフワークかがわ 杉山洋子、ローマ真由子

宇多津町保健センターにて自殺予防講演会に杉山理事長と共に講師として出席してきました。「地域での人のつながりを回復していくこと」を課題とし,地域包括支援センターの担当の方たちと一緒に,本講演のテーマを「私にもできる心のケア ~心に寄り添いあえるまちづくり~」と決定し,当日は地域住民の方と相談支援ご担当の方々,地域包括支援センターの職員の皆さんに参加頂きました。

  • 宇多津町自殺予防講演会

グリーフワークかがわの紹介,グリーフワークについての説明の後,講師自己紹介でローマは,グリーフワークに携わるきっかけと自身の経験を交えて,誰もがグリーフケアが出来る人になれるという事を少しお話しさせて頂きました。

「喪失史」のワークシートを使って自分の喪失について振り返ってもらい,小さなグループで「喪失史を書くことで何か気づいた事はあったか」という点について話し合ってもらいました。その後,話し合った内容について少し発表していただき,皆それぞれに色々な喪失を経験しているというお話しを頂戴し,「相手の話をきちんと聴く」という姿勢の大切さを確認しました。

後半では「自殺についての神話」ファクトシートを紹介し,その後「(自殺予防について)あなたには何が出来そうですか。」というテーマについてグループで話し合って頂きました。

グループでの話し合いの発表では,自殺に対する直接的な意見や,自分が出来そうな事,気づいた事などの様々な意見が出ました。グループでの話し合いには時間が足りないくらい,皆さんが色々にご意見を出されていたのが印象的でした。

喪失史を書いた後に,「改めて思い返すと,色々あったなと思うけど,案外乗り越えてきているなと思った」「こうやって見ると,まあまあ幸せな人生だったなと思う」というポジティブなご意見が出た一方,「思い出すと心がしんどくなりました」「まだ整理のつかない想いがある」というご意見もあり,やはり誰もが様々な思いを胸に毎日を過ごしているのだと改めて感じました。

喪失史を書いた後それを見ながら「自分,良くやってきているね。その時々に色々あったけど,ここまで歩いてきているね」と労う気持ちと,相手にも同様にその人の歩んできた道があるという事を理解しようとすることが,傾聴につながり,相手に寄り添う事につながり,地域全体が「聴ける・話せる」ようになれば,それは自然と自殺予防に繋がるのではないでしょうか。「自分を愛せない人は他者を愛する事はできない」とも言いますが,自分の事を認め,自分の声を聴く事が出来れば,相手の事も聴く事が出来,自分自身に寄り添うのと同様に相手にも寄り添えるのだと思います。余談ですが,我が家の子どもは寝る前に「ありがとう,自分!お疲れ様,自分!」と言います。多分どこかで覚えて来た言葉だろうと思いますが,その中には「自分をきちんと認めてあげられる自分,自分を見ている自分」が確かにいるんだなぁと思うと,私も一日の終わりには「お疲れ様,自分」と自分を見つめて認めてあげられる毎日を一日一日積み重ねようと思いました。今回も貴重な経験を有難うございました。


グリーフカウンセラー ローマ真由子


宇多津町主催の自殺予防講演会に赴き,講師を担当させていただきました。内容については,ローマの報告のとおりです。主催者である宇多津町にあらためて謝意を述べさせていただきたいと思います。

講演会の後半,東京出張から帰県されて直行された谷川俊博宇多津町長も聴講され,最後のご挨拶の中で,町として人々が支え合えるまちづくりに取り組んでいきたいという言葉を述べられました。打ち合わせの段階で,宮脇健司保健福祉課長,起弘美地域包括支援センター長,担当の高木碧さんをはじめスタッフのみなさまが,宇多津町の歴史や地域の特徴を紹介してくださいました。その熱い語りから,町を誇りに思い,地域住民の一人ひとりを大切に思っておられることを感じておりました。町長自ら発信される住民へのメッセージをお聴きしながら,町を挙げて健康づくりに取り組もうとする姿勢の原点がここにあるのだと思いました。町長が終了後も会場に残り,参加者と談笑されている風景も心に残りました。宇多津町の取り組みに心から敬意を表したいと思います。そして弊法人として,その一助になったとすれば,大変光栄に思いました。


グリーフワークかがわ理事長 杉山洋子




 リビングwithグリーフ 


道づくりは人づくりから

花岡 正憲


京都市左京区の疎水沿いに,2kmほどの小径がある。明治の頃,この道沿いに文人が多く住むようになり,「文人の道」と呼ばれていた。その後,西田幾多郎など京都大学の哲学者が散策し,哲学的思索を巡らしたことから,1972年(昭和47年),地元住民が保存運動を進め,「哲学の道」と呼ばれるようになった。道は人によって育てられ,その道が人を育てる。

「町の外へ出ると道路の脇に建物がない」昨年,英国でホームステイを経験した若者に感想を尋ねたときに返ってきた言葉である。英国は,町の中心地を離れ郊外へ出ると道路の両側に人家や店が見られなくなる。短い外国生活で目にした衝撃的な光景から,何か大切なことを学んだようだ。

英国をはじめ欧州は,道路の両側に,日本のようにダラダラと建物が続くことはない。郊外へ出るとやがて沿道には建物がなくなり,一寸車を停めて散策したくなるような田園風景が広がる。交差点では信号機がなく,ラウンドアバウトにしているところがある。延々と追い越し禁止区間が続くこともなく,片側追越し可の区間を設けている。車道幅は必ずしも広くはないが,車がスムーズに走れる合理的な工夫をしている。歩行者や他の車両の飛び出しへの懸念は少なく,快適なドライブが楽しめる。

日本は,戦後の高度経済成長期に自動車台数が急増し,歩行者を考慮しない自動車優先の道づくりが行われてきた。1964年の東京オリンピックがこれに拍車をかけた。暴走車両による事故が増え,「交通戦争」と言う言葉が生まれた。

こうした中で,1970年代「狭い日本そんなに急いでどこへ行く」と言う言葉が,国の交通安全運動の標語募集で総理大臣賞を受け,全国の交通安全スローガンとして街に張り巡らされた。

道路は,人や物を目的地までスムーズに運ぶためのものでもあるが,交通事故を減らすために,車がゆっくり走ることが,推奨されてきた。トラック,乗用車,バイク,自転車、歩行者などが共同で利用する混合交通のゾーンである道路のクオリティの改善には,長年手がつけられず,こうしたことが町づくりにも影を落としている。

幹線道路であっても,両側に民家,商店,事務所,銀行,工場などが乱立し,何キロにもわたって追い越し禁止区間が続く。右折を待っている車に進路をはばまれて,長い車の列ができる。交通混雑を解消するためにバイパスを造っても,待ってたとばかりに道路脇に商用施設が建ち,同じ光景が繰り広げられる。交差点角に,大型のスーパーマーケット,コンビニ,ドラッグストアなどが進出して,車対車,車対歩行者の複雑な動きが起きやすくなる。

日本中のいたる所に乱立するコーナーミラーや袋小路は,道づくりと町づくりの失敗を象徴する産物だ。電柱が視界を妨げ,歩行者や自転車の行く手を阻む。夜間は,蛍光反射タスキをかけの外出だ。道路行政の不作為は都市計画の障害となり,快適な町に住みたいと言う人々の願いを実現できていない。

精神を病んだ人に,散歩をすすめることがある。他者の事情に生きることに疲れてしまった人が自分の事情を取り戻すために,まず自分のペースで体を動かしてみることに意味があるからだ。

「どこか歩いてみたい道がありますか」と問いかけても,即座に答えが返ってこない。散歩の習慣がない場合もあるが,歩いて心地よい道が身近に少ないことにもよる。トレーニングジムでウォーキングマシーンを利用する人もいるが,やがてマシーンのペース合わせている自分が切なく感じるようになる。

理不尽がまかり通る今の政治を許してしまっている私たちに,明日への道は見えない。国づくりは町づくりから,町づくりは道づくりから,そして道づくりは人づくりからだろう。

哲学的思索を巡らす道でなくても良い。自分を育ててくれそうな道を持つことが大切だ。


(グリーフカウンセラー 精神科医)
2020・1・14




◆2020年1月12日 第141回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

2019年度末までの事業執行に関する事項

今年度末までに取り組む事業のスケジュールと内容の確認を行い,2019年度の行事としては,1月2月に公開セミナーが2回,3月にグリーフワーク・デー,2月3月に実務者研修が予定されていることを確認した。来年度については,総会を2020年6月14日,グリーフカウンセラー養成講座は,9月24日を第1回とし全6回開催後事業説明会を行う予定として,サンポート高松会議室を仮予約することで了承された。

第2号議案

2019年度グリーフワーク・デー街頭キャンペーンに関する事項

2019年度は2020年3月11日~3月16日を子どものグリーフワーク週間とし,3月15日(日)13時よりJR高松駅前にてグリーフワーク・デー街頭キャンペーンを実施することで了承された。ヴァイオレットリボンの準備作業は3月5日(木)19:30よりGWK相談室にて実施予定とする。

第3号議案

2020年度補助金申請に関する事項

第140回理事会で審議された香川県子ども若者孤立化防止支援事業については来年度は申請しないことで了承された。ひまわりミーティングなどの安定した会場探しを継続する。香川県地域自殺対策強化事業補助金と香川県共同募金会テーマ募金は来年度も申請する方針とする。

第4号議案

香川県障害福祉課自殺予防キャンペーンに関する事項

香川県障害福祉課より3月の自殺予防キャンペーンへの協力依頼があり,グリーフワークかがわとしては,帰宅時間となる夕方の時間帯での実施,アンケートまたはシール貼りインタビューの実施,和三盆糖やポケットティッシュペーパーの配布等の抑制を県に対して提案することで了承された。

第5号議案

香川県共同募金会令和元年度テーマ募金について

チラシ,趣意書の発送は終了しているが,さらに効果的な広報のためチラシと趣意書を1セットにして手渡しできるよう透明フィルムに封入する作業をおこなう事で了承された。




◆2019年1月19日 第87回認定カウンセラー会議◆


  1. テーマ募金,NPO法人取得10周年記念事業,実務者研修,2019年度グリーフワーク・デー街頭キャンペーンについて,周知があった。
  2. 各相談事業の報告
     12月の相談事業について現状報告があった。
  3. スーパービジョンについて
     1月8日に行ったスーパービジョンの報告があった。スーパービジョンは継続して行っていくことがカウンセラーとしての責務であることを確認した。
  4. 2019年度認定カウンセラー拡大会議について
     2019年度に認定されたカウンセラーも加えた会議を3月15日に開催することが決まった。
  5. 広報について
     現在,グリーフワークかがわの活動についてはメールやホームぺージ,Facebookで発信しているが,さらに広報をしていく必要がある。
  6. 勉強会について
     島薗進 著「ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化」を講読するにあたり,各章の担当者を決めた。