2020年(令和2年)5月グリーフワークかがわ
ニュースレター第193号(HTML版)
2020年(令和2年)6月25日 グリーフワークかがわ広報部
「大きな目標の喪失から」
皆さんは、長年に渡って、あらゆるものを犠牲にしながら努力してきた【大きな目標】が失われてしまうという経験はありますか?目標を達成できないということは多々あっても、正直言って私自身は【大きな目標】そのものが突如消えるというほどの経験はありません。
新型コロナウイルスの影響で、春の選抜高等学校野球大会に続き、夏の全国高等学校野球選手権大会、またその地方予選も中止となってしまいました。春の選抜大会代表に選ばれたものの中止となり、天国から地獄に突き落とされたような気分であったであろう選手たちにとっては、何とか気持ちを切り替えて「夏こそは!」と思っていた目標さえも失ってしまったことになります。
甲子園に出場できる高校球児の多くは人一倍努力していることはもちろん、小学校の時から友だちと遊ぶ時間や家族でゆっくり過ごす休日を犠牲にして野球に没頭してきた人たちです。中には親元を離れて遠い地域の学校で野球漬けの寮生活を送っている子もいます。すべては夢の舞台・甲子園に立つために…。
長年に渡って目標としてきた甲子園の舞台に予選で敗退して出場できないのではなく、挑戦することすらできない。目標であるその舞台そのものがない。これはどれほどの喪失感でしょう。
私もかつては甲子園を目指した元高校球児です。私を含め、多くの元高校球児が最後のチャンスを失った高校3年生に何か力になってあげたいという気持ちを持っています。しかし、甲子園大会と同等に彼らの喪失感を埋めるものは見当たりません。かける言葉も見つかりません。どんなに望んでも、高校3年生にとっては高校生にしか挑戦できない高校野球の聖地・甲子園を目指すチャンスはもうないのですから。
遺された現実は変えることができません。しかし今からできるのはその現実を悲劇で終わらすか、活かすかということだけです。大きな悲しみにあった時、人は同じような悲しみの中にいる人に共感できる「優しさ」を得ることができます。大きな苦しみを味わった時、人は困難を乗り越える「強さ」を得ることができます。甲子園という目標を絶たれた今年の高校3年生には是非ともこの辛さを味わった者であるからこその「優しさ」と「強さ」をこれまでの野球人生を通じて得た宝にして、これからの次なる目標に向かって進んでいただきたいです。そして厳しい練習の日々は苦痛を伴うものですが、彼らが誰よりも感じているであろう「野球ができる喜び」を後世の球児に伝えてもらいたいものです。
グリーフカウンセラー 中原大道
リビングwithグリーフ
かかりつけ医~プライマリケアは機能しているか~
花岡 正憲
ドイツのメルケル首相は,3月11日,新型コロナウイルス感染の完全な封じ込めが難しくなっている現状を踏まえ,医療システムに過大な負担をかけないためにも,感染拡大を遅らせて時間を稼ぐ必要があると訴えた。
メルケル首相は,政界引退を表明して以降,求心力に陰りがみられたが,新型コロナウイルス対策を巡り,真摯な呼びかけなどが功を奏して,危機時に頼れる指導者としての期待が高まった。
ドイツでは,発熱,咳,息切れなどが発生し,感染が疑われる場合,ホットラインやかかりつけ医に電話をし,その指示に従うように推奨されている。検査の対象になると判断された場合,検査センターに紹介されるか,検査スタッフが自宅まで来ることになっている。
かかりつけ医は,何らかの心身の不調を覚えたときに,最初に相談や受診ができる医師である。ドイツでは,すべての人がかかりつけ医を持っていて,かかりつけ医が浸透している。かかりつけ医はプライマリケア医とも呼ばれ,各種の疾患の初期治療に関するトレーニングを受けている。オーストラリアやニュージーランドでは,精神疾患についても,かかりつけ医が初期対応を行う。早期対応で重症化リスクを見極めることは主要な役割である。感染症対策も,こうした機能するプライマリケア・システム(初期対応制度)があってこそ,国民の支持が得られるというものであろう。
日本も,ホームドクター(家庭医,home doctorは和製英語)を持つことが推奨されているが,開業医で,本来のホームドクターの役割をはたしている医師は多くない。地域住民と医師の間にホームドクターとしての個別の契約があるわけではなく,患者の方は普段からついている医師をかかりつけ医として頼っていても,医師の側は,自分がホームドクターとして患者に対する一定の責任を負っているという認識は曖昧だ。
医師法では,医師の職にある者が診療行為を求められたときに,正当な理由がない限りこれを拒んではならないとされる「応召義務」や医師は適切な療養の方法などを患者に説明・指導しなければならない「療養指導義務」が定められてはいるが,医師法とは,医師が国に対して負担する公法上の義務であり,医師の患者に対する私法上の義務を規定するものではない。
「発熱や咳・息切れ,強いだるさ(倦怠感)などの症状があり,新型コロナウイルスの感染が疑われる方は,受診する前に,必ず最寄りの帰国者・接触者相談センターもしくは医療機関に電話で相談し,指示を受けていただきますよう,よろしくお願いいたします」多くの医療機関では,こうした「患者さんへのお願い」が掲示されている。
日本は,今回の新型コロナ対策をめぐって,保健所機能がひっ迫,民間の活用が不十分と言われるが,ドイツのようにかかりつけ医が対応できないのが現状である。健康保険証があれば全国どこの医療機関も受診できる医師と患者のゆるい関係が,国民本位のプライマリケア・システムを構築する上での障害になっていないだろうか。医療崩壊を防ぐと言えば聞こえは良いが,単に医療機関を守るためのコロナ対策になってしまっては本末転倒だろう。「隠れコロナ」や「超過死亡例」と言われる背景には,こうした事情があることは否定できない。
医療消費者の立場からも,費用対効果と言う観点からも,今回のコロナ対応を機会に,危機時に機能するかかりつけ医のあり方を考えてみるべきであろう。
(グリーフカウンセラー 精神科医)
2020・6・15
報告
◆2020年5月10日 第146回理事会◆
《審議事項》
第1号議案
2019年度事業報告と収支決算に関する事項
標記決算書の修正決算報告が行われ,5月中に監査を受けることで了承された。
第2号議案
2020年度収支予算案に関する事項
収支予算案が説明され,収入の部では寄付金予算額,技術援助,支出面では,経理事務職員給与,相談事業の人的経費並びに役員報酬について変更することで了承された。
第3号議案
2020年度事業計画に関する事項
新規事業として,役員研修,会員へのアンケート調査, NPO認証取得10周年記念シンポジウムを行うこと,資格認定審査,2020年度グリーフカウンセラー養成講座基礎コースは例年通り行うことで了承された。新規認定グリーフカウンセラーを対象にした実務者研修は,5月21日と5月24日に実施,認定カウンセラーを対象にしたスーパービジョンや事例検討会は,担当の西山理事に調整を依頼することで了承された。
第4号議案
2020年度会計担当の求人に関する事項
ハローワークへの求人申し込みに関する書面の記載内容について理事長から説明が行われ,就労形態や駐車場の有無等に関する事項の変更を行うとともに,応募受理や面談方法等の仔細について協議を行い了承された。
第5号議案
第16回社員総会に関する事項
新型コロナウイルス感染拡大防止対策の推移を見守りながら,書面評決等での参加を含め,予定通り,6月14日13:30~15:00,高松市男女共同参画センターにおいてに開催することで了承された。
第6号議案
2019年度共同募金(2020年度事業)テーマ募金助成事業変更申請に関する事項
募金目標額50万円で申請していた標記事業については,最終決定募金額426,700円を事業予算総額として変更申請を行う案が示され了承された。
第7号議案
2020年度共同募金(2021年度事業)テーマ募金助成事業申請に関する事項
新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため,予定されていた事前研修会が中止になったため,あらためて香川県共同募金会から募集案内があった段階で,理事長素案を審議することで了承された。
◆2020年5月17日 第90回認定カウンセラー会議◆
- 各相談事業の報告
3月,4月の相談事業について現状報告があった。 - 高松市自殺対策推進会議への委員の推薦についての理事会からの報告があった。
- 香川県社会福祉協議会から傾聴ボランティア養成講座の講師依頼があり当法人としてグリーフカウンセラーを講師として派遣する旨の報告があった。
- 2020年度の実務者研修について説明があった。
-
勉強会
文献「ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化」
(島薗進著 朝日新聞出版 朝日選書982)第2章 グリーフケアと宗教の役割