2021年(令和3年)6月グリーフワークかがわ
ニュースレター第206号(HTML版)

2021年(令和3年)7月1日 グリーフワークかがわ広報部

~会員からのメッセージ~


「喪失に出会うということ」


寺に生まれて育った。寺には行事が多かったので,人の出入りも多かった。何かあると,婦人会の方々が厨房に集まって料理をしていた。にぎやかな笑い声やおいしそうな匂いのするその場所が私は大好きだった。

就学前だと記憶しているが,あるおばあちゃんが新聞紙にくるんだ食パンのようなものを厨房のテーブルに広げ,一口大に切り分けて,小皿に分けていった。その時,そばで見ている私の口に切れ端を「おいしいよー」といってほうりこんでくれた。ふわり甘い黒砂糖の味がする蒸しパンだった。美味しかった。その人がIさんだと知った。それからIさんという名前が特別なものになった。蒸しパンが出されるので寺の行事は嬉しいものだと思った。小学生2,3年ごろだと思うが,Iさんが入院して行事にお参り出来なくなったことを母親から聞かされ,間もなくIさんのお葬式があったことを知った。

家族でも友達でもないが辛かった。ある日,お店で黒糖蒸しパンを買って家で食べた。あの懐かしい黒砂糖の味はしなかった。Iさんの蒸しパンとは味も歯触りも違った。ああもうあの蒸しパンは食べられないのかと思うと,小学生ながら喉の奥がキューっと絞られるように感じて,悲しかった。

人が死ぬということは,その人の声も聞けなくなり,そばで感じていた体温が感じられなくなり,その人が「はい,ヨーコちゃん」と口に放り込んでくれた美味しいものに会えなくなるということだと実感した。

それから,その喪失感はしばらくの間,たびたび繰り返されたように記憶している。

この年齢なので,大切な人との別れをいくつか体験している。そのたびに思うのは悲しみはくり返し襲うし,感情は悲しみだけに限らず,深い後悔や恨み,怒りまで引き連れてくるということである。普段は何とか人としての体裁を保つために繕っているが,よく観察してみるとどろどろとした恐ろしい感情に出会うことすらある。

喪失に出会うということは,自分の本質に出会うということだ思う。自分が何者なのかを知っていく体験なのかもしれない。

グリーフカウンセラー 多田葉子





「一隅を照らす」


一隅とは社会の片隅という意味です。比叡山を開いた天台宗の宗祖,最澄はその著『山家学生式(さんげがくしょうしき)』で,「国宝とは財宝などではない。一隅を照らす人こそが国の宝である」と述べています。

私は「自分も何か社会のお役に立てることがあれば」という思いから,平成三十年度の「グリーフカウンセラー養成講座」を受講し,令和元年十月よりほぼ毎月一回「自殺予防土曜ホットラインかがわ」を担当させて頂いています。しかし毎回必ず電話が掛かってくる訳ではありません。折角時間をやり繰りしても,一本の電話も掛かってこない日が続くと,「一体自分は何をやっているのか?ただ時間を浪費しているだけではないか?」と思うこともありました。そんな時,ふと思い出したのが表題の言葉です。

それまでは「一隅を照らす」というと,「みんなちがって,みんないい」という風に,誰もがそれぞれの場所で輝くことだと思っていました。しかし誰だって達成感を得られたり,人から評価されたりする仕事にはやりがいを持って取り組めますが,全ての仕事がそうではありません。むしろ世の中は,成果の見えない仕事や誰にも評価されない仕事の方が多いのかも知れません。そう考えると「一隅を照らす人」とは,成果や結果に一喜一憂することなく,自らの務めに粛々と取り組むことの出来る人ではないかと感じました。

グリーフワークかがわの活動も,けして衆目を集めるものではありません。むしろ目立たない地道な活動が殆どです。しかし会員それぞれが,少しずつ役割を分担していくことで,悩みを抱えた人達が助けを必要とした時に,しっかりと手を差し伸べることが出来るのではないかと感じています。継続は力なりとも申しますが,これまでの地道な活動のおかげで,今秋にはNPO法人格を取得して十周年の記念事業を迎えることとなりました。この文章を読んで下さったあなたが,もし少しでも興味を持たれたのならば,是非グリーフワークかがわの活動にご参加,ご協力下さい。そこにあなたの照らすべき一隅があるのかも知れません。

グリーフカウンセラー 山本匡史






グリーフワークかがわ相談事業のご紹介


身近な人を亡くした方のグループミーティングについて


グリーフワークかがわの事業の一つに,「身近な人を亡くした方のグループミーティング」があります。この事業は,グリーフワークかがわが創立されたときから続いている事業です。大切な人を亡くした方のメンタルヘルスを案じた当時の草創期のメンバーによって始められた活動です。

当時,「グリーフ」という言葉が今ほど,一般的でなく,悲嘆のプロセスについての理解も十分ではありませんでした。そのような中で,ケアではなく,ピアカウンセリング的な視点から,グループミーティングというスタイルをとり,参加するメンバーがお互いの気持ちを語り合う場としました。

それから,20年の月日が流れましたが,基本的なことは何も変わっていないです。参加する方は,自分の悲嘆と向き合い,互いの話の中から,これから生きていく上での力を得ていく場であると思います。メンバーは様々です。1回で終わる人もいれば,1年以上,継続して参加される方もいます。悲嘆のプロセスは人それぞれで,その人にあった形がいいと考えています。

グループミーティングは,毎月,第二日曜日の午前10時半から12時まで,主に高松市のレッツのカルチャールームで行っています。私たちは,ファシリテーターを配置し,参加される方が安心して自分の気持ちに正直になれる場となるよう取り組んでいます。このため,相手を非難しない,時間を共有する,ここで話し合ったことはこの場限りにする,といった簡単なルールを定めています。私も長年,ファシリテーターとして参加させていただいていますが,最初のときは沈んだ気持ちの人が参加を重ねることにより,自分の気持ちに向き合い,変わっていかれるのを拝見しています。

大切な人の喪失は,自分の未来を失うことでもあり,自分自身を失うことでもあります。大切な人と歩んできた人生,また,これから歩もうとしていた自分の人生を失うわけですので,この危機的な状況からどう向き合って,自分の未来を再構築していくのかは,簡単ではないわけで,そのための一つの場として,このミーティングの場はあると考えています。

グリーフワークかがわでは,このミーティング以外にも,グリーフカウンセラー養成講座,ひまわりミーティング,ヘルプライン等さまざまな事業を行っていますが,その活動の基本は,いずれもが喪失を経験した人を支える場であると考えています。

グリーフカウンセラー 池島邦夫




~ひまわりミーティング~


グリーフワークかがわでは2017年11月からモデル事業として「喪失を経験した子どもの親・保護者の為のグループミーティング ひまわりミーティング」を毎月第1日曜に男女共同参画センター及びグリーフワークかがわ相談室で開催しています。このミーティングは文字通り,喪失を経験した子どもたちをサポートする親や保護者たちが,それぞれの心配事や疑問,困りごとを話し合える場です。定期開催までには準備期間なども含めると2年以上かかっているグループミーティングですが現時点までの利用者(参加者)は決して多くはなく,子どものグリーフケアが未だ発展途上にあるのだと感じます。

親を亡くした子どもの親御さん(伴侶を亡くされた方)が参加される場合,お子さんへの心配事も大きいですが,お話しを聞いているとやはりまだご自身のグリーフケアが必要な場合が非常に多いようです。自分自身非常に大変な状況のなか,親としては子どもの心配もしなければならないという苦しい状況です。喪失を経験した子どもへのグリーフケアを学ぶ際に「飛行機の中での酸素マスクは大人が先ず付けてからとなりの子どもに」というのと同じ理由で,先ずはその子どもをケアする大人のケアを,という事が言われます。子どもをケアする大人が適切なグリーフワークを行っていると,それを日常的に見ている子どもも同じようにおのずとグリーフワークが行えるのだと思います。例えば父親を亡くした子どもなのにあまり悲しんでいるところを見ないという心配を話される場合,母親(夫を亡くした妻)が子どもの前では努めて泣かないようにしている場合は,子どもは母親の姿を見て(母親や子どもや他の家族をこれ以上悲しませまいとして泣くのをがまんしているのですが)「自分も泣いてはいけないのだ」と思ってしまうのです。

少しケースは違う私自身の経験ですが,6歳の子どもが夜になると少し落ち込んでいるようになった時期がありました。何かあったのかと尋ねても「なんとなくお腹が痛い,ような気がする」といった,はっきりしないぼんやりとした体調不良でもないけれども明らかに今までとは違う様子でした。しばらく過ぎて,保育所の卒園式シーズンが近づき,保育園の送り迎えで自然と卒園後の小学校の話題が出るようになった時に,自分はみんなと同じ小学校になぜいけないのか,という事をぽつりと帰宅後に話したことがありました。(私たちは子どもの卒園・入学に合わせて引っ越すことになっていました。)その時に私は子どもに引っ越すという事だけを伝えて,その他の事は何も話し合ってない事に気づきました。子どもにしてみると,引越しという事自体が初めての経験ですし,いくら県内での引越しでもこれからも友だちに会えるのか,それとももうずっと会えなくなるのか,自分が住んでいるこの家はどうなるのか,いつも行ってた公園は,など沢山の疑問や心配事があったのに,両親は荷物の心配や片付けの事しか言わなかったのでとても不安だったろうと強く反省しました。また,私自身もその時に初めて自分自身の「住み慣れた場所からの別れ,日常生活の変化」というグリーフの中にいるのだと気づきました。それからは家族で色々と引っ越すまでの事や引っ越した後の事,今までのこの家での出来事などを沢山話し合い,引越し当日はしんみりしつつも穏やかに過ごすことが出来ました。引っ越し後も前の家での話や町や生活について自然と話題になり,引越し前と引っ越し後がきちんと繋がっている感覚が強くあります。

引越しと大切な人との死別では話が違う,と言われるかもしれませんが,私のケースのように自身の喪失に気づいていない場合も多々あるかと思います。もし引越しの忙しさにかまけて家族で引越しについてきちんと向き合えてなかったら,新しい場所での生活や家族の有り方に将来何かしらの影響があったかも,とも思います。

話がそれてしまいましたが,グループミーティングではカウンセラーや参加者でお話しすることで自分でも気づいていない自分の気持ちが見えることが多々あります。ひまわりミーティングには保護者は勿論,子どもをケアする立場にある方も参加頂けます。様々な立ち位置からお話しし,聴くことが更なる子どもへのサポートとなると感じています。グリーフワークかがわでは今後も子どものグリーフケア,子どものグリーフワークについても励んで参りますので皆様のご協力をお願いする次第です。

グリーフカウンセラー ローマ真由子






◆グリーフワークかがわ第17回社員総会報告◆


特定非営利活動法人グリーフワークかがわ定款第23条に基づき第17回社員総会を開催しましたので,下記の通り報告いたします。


日 時:2021年6月13日(日)13時00分~14時30分

場 所:丸亀町レッツホール・カルチャールーム

高松市丸亀町1番地1 高松丸亀町壱番街東館4階

出 席:出席者12名(正会員12名) 正会員委任状出席者19名

監事1名 オンラインで新任予定監事1名

  1. 開会の辞
  2. 議長選出

    司会の多田敏恭から,正会員総数52名中,出席者12名,委任状提出者19名の報告があり,定款第26条並びに第28条3に基づき,定足数を満たすことが確認され,第17回社員総会は有効に成立する旨が宣言された。議長は,推薦により上野美幸が選出された。議長は,書記をローマ真由子,議事録署名人を花岡正憲と村上美智子に指名した。

  3. 議 事

    第1号議案 2020年度事業報告

    杉山洋子理事長より,総会資料に沿って,2020年度の事業の実施状況について報告が行われた。


    第2号議案 2020年度収支決算報告

    村上美智子理事より,総会資料に沿って,2020年度の収支決算について報告が行われた。


    第3号議案 監査報告

    生駒学監事より,2021年5月14日,杉山洋子理事長,村上美智子理事立会いのもと,2020年度事業について,福岡啓治監事とともに,適正かつ正確に執行されていると認め監査を終了したと報告があった。

    上野議長から,第1号議案から第3号議案について,一括質疑が求められたが質疑はなく,採決が行われた。出席者正会員12名中,賛成11(議長は除く),反対0棄権0,議長委任状は19名,よって本議案は承認された。


    第4号議案 2021年度事業計画案

    杉山理事長より,総会資料に沿って,2021年度の事業計画の説明が行われた。


    第5号議案 2021年度収支予算案

    村上美智子理事より,総会資料に沿って,2021年度収支予算案の説明が行なわれた。

    上野議長から,第4号並びに第5号議案について,一括質疑が求められたが質疑はなく,採決が行われた。出席者正会員12名中,賛成11(議長は除く),反対0棄権0,議長委任状は19名,よって本議案は承認された。


    第6号議案 定款変更

    杉山理事長より定款第1章第2条の当法人の事務所住所の記載について,今後の住所変更時の諸手続きを効率的に行うために「香川県高松市内に置く」と変更する点と第6章題第36条2の「書面をもって表決することがすることができる」を昨今の情報及び業務のデジタル化にあたり「紙文書または電子文書を持って表決することができる。」と変更する説明があり,上野議長から質疑が求められたが質疑はなく,採決が行われた。出席者正会員12名中,賛成11(議長は除く),反対0棄権0,議長委任状は19名,よって本議案は承認された。


    第7号議案 認定カウンセラー資格認定規則の改定に関する事項

     資格更新制度の見直しについて,社会的に高度な専門業務が担保された資格制度にするため,研修を義務付けたうえでの資格の更新を行うよう,資格保有期間は現行の2年から5年へ延長すると共に資格更新条件としてポイント制とすること,なおポイント指定については資格認定委員会が定めるということについて杉山理事長から報告があった。この後,賛否を求めたところ,出席者正会員12名中,賛成11(議長は除く),反対0棄権0,議長委任状は19名,となり承認された。


    第8号議案 役員改選

    定款第13条及び第15条の規定により役員選出を行うこととなり,杉山理事長から,事前に自薦,他薦の届はなかったと報告があった。また現任の4名の役員と1名の監事の退任が報告された。この後,杉山理事長から,現任の役員以外に自薦ないし他薦の候補がない場合は,現任の理事5名並びに新任理事として4名,新任監事として1名を,事前に役員就任の承諾が得られていることの報告と同名を候補として推薦したいとの発言があった。この後,賛否を求めたところ,出席者正会員12名中,賛成11(議長は除く),反対0,棄権0,議長委任状は19名,となり承認された。


    役員を退任された者は次のとおりである


    理事 夛田敏恭
    理事 瀬尾憲正
    理事 西山忠明
    理事 村上典子
    監事 生駒学


    理事及び監事に選任された者は次のとおりである。


    理事 上野美幸(重任)
    理事 杉山洋子(重任)
    理事 花岡正憲(重任)
    理事 村上美智子(重任)
    理事 ローマ真由子(重任)
    理事 小栗洋子(新任)
    理事 梶浦麻琴(新任)
    理事 多田葉子(新任)
    理事 三嶋麻実(新任)
    監事 福岡啓治(重任)
    監事 塚本秀和(新任)


    第9号議案 その他

    なし

以上



◆2021年6月13日 第160回理事会◆


《審議事項》

第1号議案

理事長,副理事長の選任に関する事項

定款第13条第4項に従い,第17回社員総会において選出された理事による互選が行われ,理事長に杉山洋子,副理事長にローマ真由子がそれぞれ選任された。なお,被選定者は,席上ただちに就任を承諾した。

第2号議案

2021年度理事の役割分担に関する事項

本年度の事業計画に基づき,主担当理事及び副担当理事が決定された。担当は,以下の通りで承認された。

普及啓発 主担当 多田  副担当 小栗 ローマ
相談事業 主担当 ローマ 副担当 村上 多田
人材育成 主担当 上野  副担当 梶浦
教育研修 主担当 三嶋  副担当 花岡
技術援助 主担当 花岡  副担当 ローマ
調査研究 主担当 小栗  副担当 上野
管理運営 主担当 杉山  副担当 村上 梶浦

第3号議案

NPO法人取得10周年記念事業に関する事項

2021年6月4日開催の第17回実行委員会の報告が行われた。退任した夛田敏恭実行委員長に代わり多田葉子理事が新実行委員長に就任し,引継ぎ作業を行い,第18回実行委員会は7月1日(木)19時の予定となっている。

第4号議案

2021年度認定カウンセラー資格認定委員の選出に関する事項

資格認定規則に基づき,2021年度資格認定委員が選出され,第1回資格認定委員会は理事長招集により行うこととなった。

第5号議案

2021年度認定カウンセラー研修の計画に関する事項

認定カウンセラー研修の年間計画について,教育研修担当三嶋理事,花岡理事を中心に,企画立案を進めることで承認された。

第6号議案

オンラインによる会議に関する事項

Zoomなどの通信アプリによるオンラインでの会議開催について,新型コロナウイルス感染拡大の状況下にある現在試験的に開催しているが,事例や個人情報の管理が問題とならない会議については今後も引き続き試験運用を続け,将来の継続的な使用については,理事会での継続審議とすることで承認された。

第7号議案

技術援助事業「坂出市社会福祉協議会主催傾聴ボランティア養成講座」に関する事項

技術援助担当理事より講師派遣依頼について説明が行われ,詳細について確認後,認定カウンセラー相談メーリングを用いて講師の募集を行い人選を行う予定となり承認された。




◆2021年6月20日 第103回認定カウンセラー会議◆


  1. 5月の事業報告
     相談事業,普及啓発事業について報告を行い,対応について検討を行った。
  2. 2021年度認定カウンセラー研修について
     認定カウンセラー会議で行っていく研修の内容案と進め方について検討し理事会で諮ることとなった。